令和7年4月から施行される雇用保険法の改正の一部について取り上げます。
目次
- 高年齢雇用継続給付金の縮小
- 育児休業給付金の延長手続の変更
1.高年齢雇用継続給付金の縮小
「雇用保険法の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)の施行により、令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率が変更されます。その後、廃止も含めて見直しが検討されることになっているようです。まずは、現状の高年齢雇用継続給付から見ていきます。
- 現状の高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付は、「高年齢雇用継続基本給付金」と60歳以後に基本手当の支給を受けていて再就職をした場合(要件あり)に支給される「高年齢再就職給付金」のふたつがあります。雇用された期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳時点に比べて75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給されます。
現行の高年齢雇用継続給付の支給額は、60歳以上65歳未満の各月の賃金額が、61%未満に低下した場合、低下した各月の賃金の15%相当額です。61%以上75%未満に低下した場合、低下した率に応じて各月の賃金の15%相当額未満が支給されます。ただし、各月の賃金が376,750円(令和6年8月現在 毎年8月1日に変更されます。)以上であるときには、支給されません。
例えば、60歳時の賃金が40万円で60歳以後の賃金が24万円(60%)に低下した場合、24万円の15%の3万6千円が支給されます。初回分は、受給要件を満たしてから最大4か月後、その後の受給は2カ月ごとになります。
- 改正後の支給額
60歳に達した日(その日時点で被保険者であった期間が5年以上ない方はその期間が5年を満たすこととなった日)が
令和7年3月31日以前の方 ・・・ 各月に支払われた賃金の15%(従来の支給率)を限度として支給されます。
令和7年4月1日以降の方 ・・・ 各月に支払われた賃金の10%(変更後の支給率)を限度として支給されます。
つまり、すでに今現在支給を受けている方の支給率は、最大15%のままで変わりません。そこは、心配無用です。令和7年4月以降に60歳になる方は、上限が10%になります。上の24万円の例でいうと2万4千円が支給されます。以下は厚生労働省のリーフレットからの引用です。
令和7年4月1日以降の支給率
各月に支払われた賃金の低下率 | 賃金に上乗せされる支給率 |
---|---|
64%以下(61%以下) | 各月に支払われた賃金額の10%(15%) |
64%超75%未満(61%超75%未満) | 各月に支払われた賃金額の10%(15%)から0%の間で、賃金の低下率に応じ、賃金と給付額の合計額が75%を超えない範囲で設定される率 |
75%以上 | 不支給 |
2.育児休業給付金の延長手続きの変更
こちらは雇用保険法施行規則の改正です。これまでは、保育所等の利用を申し込んだものの、当面入所できないことについて、市区町村の発行する入所保留通知書などにより確認していました。2025年4月からは、これまでの確認に加え、保育所等の利用申し込みが、速やかな職場復帰のために行われたものであると認められることが必要になります。具体的には以下の3つの書類が必要です。
- 育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書
- 市区町村に保育所等の利用申し込みを行ったときの申込書の写し
- 市区町村が発行する保育所等の利用ができない旨の通知(入所保留通知書、入所不承諾通知書など)
この見直しの背景については、厚労省のホームページに以下の記載があります。
見直しの背景・経緯
内閣府地方分権改革有識者会議における「令和5年の地方分権改革に関する提案募集」において、自治体から
・保育所等への入所意思がなく、給付延長のために申し込みを行う者への対応に時間が割かれる
・意に反して保育所等への入所が内定となった方の苦情対応に時間を要している
として、見直しの要望があり、「令和5年の地方からの提案等に関する対応方針」(令和5年12月22日閣議決定)において、「育児休業給付の期間延長については、保育所等の利用調整における市町村(特別区を含む。)の事務負担を軽減するとともに、制度の適切な運用を図るため、公共職業安定所(以下、「ハローワーク」という。)において延長可否を判断することを明確化する方向で検討し、令和5年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」とされました。
これを受け、厚生労働省労働政策審議会に「雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱」を諮問・答申の上、雇用保険法施行規則を改正し、手続の見直しを行いました。
この問題はマスコミにも取り上げられ、私もテレビで見ました。
育児休業給付金は、従前、雇用継続給付の一つとされていましたが、令和2年の改正により、失業等給付の雇用継続給付から除かれて、失業等給付とは別の給付である育児休業給付の給付として位置づけられました。雇用継続給付の趣旨は、その名の通り、「仕事を辞めないで」、「継続して」というものです。「高年齢」や「育児」といった、仕事を続けることが困難な状況の人に仕事を続けるインセンティブを与える趣旨です。育児休業給付金も、雇用継続給付の一つであった時代からその趣旨は変わっていません。つまり、育児休業給付金は、最初から仕事を辞めるつもりの人には本来支給されません。ただ、それを秘められてしまうと心の中まではのぞけませんので、仕事に復帰するつもりがあると本人が言うなら支給され得ることになります。延長についても同様の考え方です。「保育所の入所を希望しないのに保育所に入所申込みをしたのならば、本当に仕事に復帰する気はあるのですか。」と、役所としては当然なります。法律の趣旨に反することになるからです。
2025年4月からの雇用保険法の改正は、高年齢雇用継続給付金については、「辞めないで」というインセンティブを減らし、育児休業給付金の延長の手続については、「辞めないで」の趣旨に沿っているのかを厳しく判断することになります。
厚生労働省のホームページのリンクはこちらです。延長事由認定申告書もございます。