労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度について

目次

  1. 保険関係成立届
  2. 事業主からの費用徴収
  3. 徴収額

労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度について です。

保険関係成立届

保険関係成立届は、保険関係が成立した事業の事業主が提出しなければならないものですが、注意したいのは、この届を提出することにより保険関係が成立するわけではないことです。保険関係は、事業が開始された日に成立します。
「保険関係成立届」は、報告書という意味合いです。

そして、保険関係成立届を提出していない(いわゆる未手続の)期間中に生じた事故について、労災保険給付を行った場合、政府は事業主から費用徴収ができます。労働者の保険給付は制限されません。

保険給付を制限してしまうと、実際に被害を受けるのは労働者になってしまうからです。

事業主からの費用徴収

労災保険法による保険給付は、労働基準法による災害補償に相当するものとみなされています。よって、労働基準法の規定による災害補償の価格の限度で、政府は事業主から保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。

以下は、その根拠となる、労働者災害補償保険法31条1項の条文です。

第三十一条 政府は、次の各号のいずれかに該当する事故について保険給付を行つたときは、厚生労働省令で定めるところにより、業務災害に関する保険給付にあつては労働基準法の規定による災害補償の価額の限度又は船員法の規定による災害補償のうち労働基準法の規定による災害補償に相当する災害補償の価額の限度で、複数業務要因災害に関する保険給付にあつては複数業務要因災害を業務災害とみなした場合に支給されるべき業務災害に関する保険給付に相当する同法の規定による災害補償の価額(当該複数業務要因災害に係る事業ごとに算定した額に限る。)の限度で、通勤災害に関する保険給付にあつては通勤災害を業務災害とみなした場合に支給されるべき業務災害に関する保険給付に相当する同法の規定による災害補償の価額の限度で、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができる。


一 事業主が故意又は重大な過失により徴収法第四条の二第一項の規定による届出であつてこの保険に係る保険関係の成立に係るものをしていない期間(政府が当該事業について徴収法第十五条第三項の規定による決定をしたときは、その決定後の期間を除く。)中に生じた事故


二 事業主が徴収法第十条第二項第一号の一般保険料を納付しない期間(徴収法第二十七条第二項の督促状に指定する期限後の期間に限る。)中に生じた事故


三 事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故

労働者災害補償保険法31条1項 

徴収額

政府は、次のいずれかに該当する事故について保険給付を行ったときは、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができます。

1. 事業主が故意または重大な過失により保険関係成立届を提出するのを怠っていた期間中に生じた事故

2.一般保険料の滞納中の事故

3.事業主が故意又は重大な過失により生じさせた事故

1.の場合について
加入手続きについて行政機関からの指導等を受けたにもかかわらず、10日以内に事業主がこれを行わない期間中に労災事故が発生した場合は、「故意に手続を行わないもの」と認定して保険給付額の100分の100を徴収します。

加入手続きについて行政機関からの指導等を受けていないが、事業主が事業開始の日から1年を経過して、なお加入手続きを行わない場合には、「重大な過失により手続を行わないもの」と認定して保険給付額の100分の40を徴収します。

2.の場合、
保険給付の額 × 滞納率(納付すべき概算保険料に対する滞納額の割合、最大100分の40)
を徴収します。

3.の場合、
給付額の100分の30を徴収します。

1~3のいずれも、療養を開始した日の翌日(即死の場合は事故発生日)から起算して3年以内の期間において支給事由の生じたものに限られます。