目次
1.はじめに
1.1 労働保険の手続きの概要
1.2 社会保険の手続きの概要
2. 労働者災害補償保険、雇用保険の適用事業所
3. 健康保険および厚生年金保険の適用事業所
4. 結論
5. 補足
1.はじめに
個人事業主が会社を法人化したら必要な手続についてお話します。ここでは、労働保険と社会保険に関する手続にしぼって考えたいと思います。また、分かりやすくする為に個人事業主がこれまで労働者を使用せずに1人で事業をしていた場合を考えます。
1.1 労働保険の手続きの概要
まず労働保険とは何かというと、労働者災害補償保険(以下、労災保険)と雇用保険の2つを総称して労働保険といいます。保険料も労災保険と雇用保険は同時に支払います。年度(毎年4月から翌年3月まで)によって計算し、前払いで一年分をまとめて支払います。概算で1年分を前払いし、年度が過ぎてから確定清算します。
1.2 社会保険の手続きの概要
社会保険というと、いろいろな意味で使われますが、ここでは健康保険と厚生年金保険を総称して社会保険と呼んでいます。健康保険の保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合です。また、健康保険法ではありませんが、他の保険者として、公務員等が加入する共済組合や私立学校の先生等が加入する日本私立学校振興共済事業団もあります。全国健康保険協会の場合、厚生年金保険と一体的に運用されており、保険料は、月単位で毎月支払います。
2. 労働者災害補償保険、雇用保険の適用事業所
適用事業の範囲(労働者災害補償保険法3条1項)
この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。
まずは労災保険についてです。公務員等の一部の例外を除き、法人であるかないかに関わらず、労働者を1人でも使用している事業は、労災保険の適用事業になります。
適用事業(雇用保険法5条)
この法律においては労働者が雇用される事業を適用事業所とする。
次に雇用保険ですが、農林水産業の一部を除き、労働者を1人でも雇用する事業は、原則として適用事業となります。
つまり、労働者を1人も使用しておらず、新たに使用しないのであれば、労災保険と雇用保険の適用事業所にならず、個人事業を法人化しても特に手続を必要としません。
3 健康保険、厚生年金保険の適用事業所
健康保険と厚生年金保険はどうでしょうか。健康保険及び厚生年金は、一体的に手続きを行うことになっています。健康保険の適用事業所に「船員法1条に規定する船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶」を加えたものが厚生年金の適用事業となります。そして、健康保険の適用事業所ですが、強制適用事業所は、次のいづれかに該当する事業所をいいます。
1 法定17業種の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するもの
2 国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの
法定17業種は、たくさんあるので、法定17業種以外を押さえます。法定17業種以外の業種は以下の通りです。
1 農林、畜産、養蚕、水産業
2 料理店、飲食店、旅館、映画館、理美容業
3 宗教業
そして強制適用事業所以外の事業所は、認可を受けて適用事業所になることができます。認可後は強制適用事業所と同様に扱われます。これを任意適用事業所といいます。
適用事業所をまとめると以下のようになります。
強制(5人以上) | 強制(5人以上) |
強制(5人未満) | 強制(5人未満) |
法廷17業種 | 法廷17業種以外の業種 |
強制(5人以上) | 任意(5人以上) |
任意(5人未満) | 任意(5人未満) |
法廷17業種 | 法廷17業種以外の業種 |
法人の場合、人数や業種に関わらず強制適用事業となります。よって、個人事業主が会社を法人化した場合、代表者1人であっても強制適用事業所となり、健康保険の被保険者となります。ここでの従業員とは、その事業所に常時使用されるすべての者について計算します。すなわち健康保険の被保険者たるべき者はもちろん、週所定労働時間が20時間未満の被保険者となることができない者も算入されます。そしてその法人の代表者は、その法人に使用されるものとして従業員にカウントされます。
社長は、労災保険、雇用保険においては労働者ではないが、健康保険、厚生年金保険においてはその法人に使用されるものとして従業員になります。ややこしいですね。
つまり、法人化すると原則として、健康保険と厚生年金は手続が必要です。
強制適用事業所ですので、その個人事業主が他の会社で健康保険に加入していても、新たに法人化した会社で被保険者になります。この場合、「保険者選択届」または、「2以上の事業所勤務届」を提出する必要があります。
4 結論
労働保険については、あくまで労働者の使用の有無によるので、1人個人事業主が法人化をしたことで新たに手続きが必要になることはありません。
健康保険、厚生年金保険については、1人個人事業主が法人化した場合、強制適用事業所になるので、原則加入手続が必要です。ただし、役員報酬がない場合や、保険料が天引きできないほど低額な場合を除きます。
5 補足
ここからは、補足の情報です。
法人の代表者等に対する健康保険の適用について(平成15.7.1保発0701002号、平成16.3.30保発0330003号、平成25.8.14事務連絡)
1 健康保険の給付対象とする代表者等について
被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、健康保険による保険給付の対象とすること。
2 労災保険との関係について
労災保険との関係について法人の代表者等のうち、労働者災害補償保険法の特別加入をしている者及び労働基準法上の労働者の地位を併せ保有すると認められる者であって、これによりその者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関し労災保険による保険給付が行われてしかるべき者に対しては給付を行わないこと。このため、労働者災害補償保険法の特別加入をしている者及び法人の登記簿に代表者である旨の記載がない者の業務に起因して生じた傷病に関しては、労災保険による保険給付の請求をするよう指導すること。
労災保険に加入していないこと等の条件はありますが、なんとなんと、1人個人事業主が会社を法人化し、健康保険の適用の手続をしたら、業務に起因して生じた傷病に関しても健康保険が使えます。
- 協会けんぽのホームページに業務上の負傷等について記載されています。(注1)の部分です。合わせてご参照ください。