今回は、 労災保険法の業務上疾病(業務上の病気)について の考え方です。

目次
- 基本的考え方
- 範囲
- 認定基準
基本的考え方
労働者が発症した疾病については、一般に多数の原因または条件が競合しており、その条件の1つとして業務が介在していることは否定できません。
しかし、条件の1つとして業務が介在していることを根拠として、直ちに業務と疾病との間に因果関係があるとすることは妥当ではなく、業務と疾病との間にいわゆる相当因果関係がある場合にはじめて業務上疾病として取り扱われるべきとされています。
労災保険法による業務災害に関する保険給付は、労働基準法の相当する各規定に定める災害補償の事由が生じた場合に行うものとされていますが、労働基準法における災害補償責任は事業主の過失の有無を問わずに事業主に課されるものであること、労災保険給付の原資は事業主が全額負担した保険料であることを考慮すれば、労働者が発症した疾病が業務に起因するものであるか否かの判断は適正になされなければなりません。
また、労働者が発症した疾病の業務起因性は、明確でかつ妥当なものでなければならないものと考えられています。
範囲
労働基準法第75条第1項において、「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない」と規定されています。
そして第2項において「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める」となっています。
疾病の場合は負傷と異なり、業務との因果関係、業務に起因した疾病なのかどうかを判断することが極めて困難なため、労働基準法施行規則別表にその範囲を示しています。
労働基準法施行規則別表は、以下の通り、業務上の負傷に起因する疾病のほか、その業務に従事している者が当該業務に起因して罹患すると一般的に認められている疾病を主として有害因子の態様に応じて類型的に列挙するとともに、将来このような列挙疾病を追加拡充する必要のあることを考慮して、第10号に「厚生労働大臣が指定する疾病」を加えるとともに、第11号に「その他業務に起因することの明らかな疾病」を設けるほか、個々の事例に即して業務起因性の判断を行う途も残すという方法によって、業務上疾病の範囲を明らかにしています。
なお、第8号は脳・心臓疾患、第9号は精神障害を示しています。
労働基準法施行規則別表第1の2
第1号:業務上の負傷に起因する疾病 (例 頭部外傷後の外傷性てんかん等)
第2号:物理的因子による疾病 (騒音性難聴、熱中症等)
第3号:身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病 (例 振動障害、腱鞘炎など)
第4号:化学物質等による疾病 (例 酸素欠乏症)
第5号:粉じんを飛散する場所での業務によるじん肺症とじん肺合併症
第6号:細菌、ウイルス等の病原体による疾病 (例 針刺事故によるウイルス性肝炎、新型コロナウイルス感染症)
第7号:がん原性物質もしくはがん原生因子、またはがん原性工程での業務による疾病 (例 中皮腫)
第8号:長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、もしくは解離性大動脈瘤、またはこれらの疾病に付随する疾病
第9号:人の生命に関わる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害、またはこれに付随する疾病
第10号:前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病
第11号:その他業務に起因することの明らかな疾病
認定基準
各業務上疾病に関しては、認定にあたっての業務内容、従事期間、業務による負荷、症状、等についての認定基準が通達で発せられていて、事案に応じて認定要件を満たすかどうかの調査が行われます。
認定基準は、各疾病についての現在の医学的知見を集約し、当該疾病と業務との関係について有害因子とそのばく露期間等、及びそれによって引き起こされる疾病の病態等を示したものです。
認定基準が示されていない疾病については、個々の事案について業務起因性の判断が行われることになります。
各認定基準は、行政内部の行政通達ではありますが、一般に公開されていますので内容を把握することができます。
そのため、別表第1の2に定められた疾病に係る労災請求を行う労働者または遺族は、認定基準の要件を満たしていることの立証を行えば良いことになります。
また、認定権者を行う行政機関においては、認定における斉一性の確保ができることになります。
主な認定基準は以下の通りです。
・腰痛
S51.10.16基発第750号「業務上腰痛の認定基準等について」
・騒音性難聴
S61.3.18基発第149号「騒音性難聴の認定基準について」
・振動障害
S52.5.28基発第307号「振動障害の認定基準について」
・上肢障害
H9.2.3基発第65号「上肢障害に基づく疾病の業務上外の認定基準について」
・じん肺症
S53.4.28基発第250号「改正じん肺症の施行について」
S53.6.1事務連絡「じん肺性の合併症に係る療養費の取扱いについて」
・感染症
S57.2.18基収第121号の2「非A非B型ウイルス性肝炎の業務上外について」
S63.2.1基発第57号「海外における業務による感染症の取扱いについて」
・石綿障害
H24.3.29基発0329第2号「石綿による疾病の認定基準」
・脳、心臓疾患
R3.9.1基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
・精神障害
H11.9.14基発第545号「精神障害による自殺の取扱いについて」
R5.9.1基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」
業務遂行性
業務上疾病の場合においても業務遂行性は、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配管理下にある状態」を言います。
すなわち、業務上疾病は、労働者が労働の場において業務に内在する有害因子に暴露して引き起こされるものですので、これらの有害因子を受ける危険にさらされている状態を業務遂行性ということになります。
この業務遂行性は、労働者が事業主の支配管理下にある状態において疾病が発症することを意味しているものではなく、事業主の支配管理下にある状態において有害因子に暴露していることを意味します。
したがって、例えば労働者が事業主の支配管理下において脳出血を発症したとしても、その発症原因に足りうる業務上の理由が認められない限り、当該脳出血と業務との間には相当因果関係が成立しないということになります。
逆に、労働者が事業主の支配管理下を離れた場合における発症であっても、業務上の有害因子への暴露によるものと認められる限り、当該疾病と業務との間に相当因果関係が認められるということになります。
業務起因性
労働者が発症した疾病について、労働の場における有害因子の存在、有害因子へのばく露条件、並びに発症の経過及び病態の3要件が満たされる場合には、原則として業務起因性が認められることになります。
有害因子に暴露していた期間と病気の発症の時期が離れていると、業務に起因した疾病なのかの判断はより難しくなります。
私自身、会社員時代に労災は2回あります。
1つは業務上の怪我で、もう一つは業務上の疾病です。
怪我の場合は比較的わかりやすいです。
会社もすんなり労災の5号用紙を書いてくれました。
病気の時は、5号用紙はすんなりは書いてもらえませんでした。
先にあげた別表第1の2の分類で言うと、第2号か第11号にあたると思います。
そして、リハビリ中に労働基準監督署から電話がありました。
現状についてその人に率直に話をしたところ、その後は電話がなくなりました。
認定要件を満たすかどうかの調査の1つと思われます。
病院の医師にも電話をしていたようです。
ポイントの1つはやはり医師の意見、診断内容かと思います。
業務との因果関係が認められるかどうかです。
確かに周囲から見ると、この因果関係は判断が難しいかもしれません。
しかし、自分自身の中では、業務に起因するものだと確信しています。
何せ自分の体のことですから。
現在はその病気は治っていますが、当時は病気が本当に治るのか、いつ治るのか、非常に不安な気持ちでした。
退職しても給付が止まることのない労災の給付は、心の不安を和らげてくれたことを覚えています。
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