次期年金制度改革に向けて厚生労働省が見直し案

目次

  1. 被用者保険の適用拡大
  2. 年収の壁対応: 保険料負担割合の軽減
  3. その他の見直し案

厚生労働省は、次期年金制度改正に向け、制度の見直し案を示しました。令和7年通常国会に法案提出をめざしているようです。その中から実務に影響のありそうなものを紹介いたします。

被用者保険の適用拡大

勤務先の企業規模や業種によって被保険者の適用有無が変わるのは不合理として、特定適用事業所の企業規模要件を撤廃するほか、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所における非適用業種も解消し、強制適用とするとしました。

賃金要件は、最低賃金の上昇などを踏まえて引き続き検討。労働時間要件及び学生除外要件は維持するとしました。(表1,表2参照)

表1 特定適用事業所の要件の見直し案

要件現行見直し案
企業規模要件51人以上撤廃
労働時間要件週所定20時間以上維持
賃金要件月額8.8万円以上未定
学生要件適用除外維持

表2 常時5人以上の個人事業所の見直し案

5人以上5人未満
法定17業種(※)適用適用外
上記以外の業種適用外→適用適用外

特定適用事業所とは、常時51人以上の被保険者を使用する事業所のことを言います。令和6年10月に51人以上に変更されました。

(引用:月間社労士2024年12月号)

※法定17業種についてはこちらのブログの「3. 健康保険および厚生年金保険の適用事業所」をご参照ください。

この見直し案の「被用者保険の適用拡大」が実施されれば、例えば、飲食店で従業員8名の個人事業の事業所についても、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業となります。

まだ見直し案の段階ですし、実際の実施時期は先になるかもしれませんが、それなりにインパクトがありそうです。

企業規模50人以下、または法定17業種以外の業種で、従業員を現に雇用している、またはこれから雇用する場合、認識しておいた方がいいでしょう。

「年収の壁」対応は保険料負担割合の軽減で

被用者保険の保険料負担は労使折半が原則ですが、健康保険に関しては、現行制度においても健康保険組合の特例として健康保険料の負担割合を被保険者に有利に変更できます。厚生労働省案は、この特例を参考に、厚生年金も含めて特例を設けるもので、労使の合意の下、被保険者の負担割合を引き下げることができるようにするとしています。

被保険者の手取り収入の減少及び就業調整を回避する目的というのが特例の狙いとされています。

(引用:月間社労士2024年12月号)

この「年収の壁」とは、106万円の壁といわれるもので、

8.8万円×12月≒106万円

となることから106万円の壁と言われたりします。しかし、月額賃金8.8万円は、少なくとも東京では壁ではないと思います。健康保険・厚生年金保険の被保険者の要件として、週の所定労働時間が20時間以上というものがあります。

東京の最低賃金の1,163円で週20時間働くと、月の賃金は、

1,163円×20時間×(52週÷12月)≒100,793円

となり、88,000円を超えます。つまり、週20時間以上の要件を満たすと月額賃金は88,000円以上になる可能性が高いです。また、被保険者になるかならないかは、年収(106万円)で要件を見ているわけではありません。あくまで月額賃金の88,000円で見ます。マスコミ等でよく使用されますが、106万円の壁という表現は、誤解を招くのでよくないと思います。

その他の見直し案

そのほか、「在職老齢年金制度の撤廃・縮小」や「標準報酬月額の上限引き上げ」、「子のない配偶者に対する遺族年金制度見直し」などの見直し案が明らかにされました。

正式決定し、その時点で気になることがあれば、また取り上げたいと思います。