労働・社会保険に関する書類はいつまで保存義務があるのでしょうか?紙で保存している場合には場所の問題も発生します。
目次
- 書類の保存期間
- 労働基準法109条について
- 書類の保存方法
書類の保存期間
書類の保存期間について、保存期間ごとにまとめてみました。
5年(作成日から)
健康診断個人票
面接指導の結果の記録
ストレスチェックの結果の記録
上記以外の書類の保存期間については、原則としてそれぞれの法律に関する書類ごとに定めがあります。それぞれの法律は、以下の通りです。
3年(その完結の日から)
労働基準法に関する書類(雇入れまたは退職に関する書類、労働者名簿、時間外・休日労働協定届など)
労働安全衛生法(上の保存期間5年以外の書類)
労働者災害補償保険法(労災保険の請求書類等)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(ただし、雇用保険被保険者関係届出事務等処理簿は4年)
3年(有効期間が終了した日から)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(派遣元管理台帳、派遣先管理台帳、労使協定方式の場合の労使協定に関わる書面など)
2年(その完結の日から)
雇用保険法(ただし被保険者に関する書類にあっては4年)
厚生年金保険法
健康保険法
2年(帳簿閉鎖の時から)
社会保険労務士法(帳簿を関係書類とともに)
上記の「その完結の日」というのは、従業員の退職・解雇日や死亡日、最後の記入を行った日のことです。
求職者給付の基本手当は離職の日以前2年間に通算して12箇月以上被保険者期間があることが原則の要件ですが、引き続き30日以上賃金の支払いを受けることができなかった被保険者については、最大で離職日以前4年間で要件をみることになっています。そのために雇用保険の被保険者に関する書類については、4年間が保管義務期間となっています。
また、上記の「帳簿閉鎖の時」とは、帳簿への追記や修正を不要な状態にする時のことを指します。たとえば、契約終了により業務が完了し、必要な書類も全て揃えられた時点などが該当します。
労働基準法109条について
労働基準法109条には、5年の保存期間が設けられていますが、当分の間は3年とされています。
(記録の保存)
引用 法令検索e-gov 労働基準法 第109条
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
第百四十三条 第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
引用 法令検索e-gov 労働基準法 第143条
なぜ、こんなまわりくどいことになっているのかについては理由があります。
民法の消滅時効についての見直しが行われたことにより、労働基準法もそれに合わせて2020年4月に改正され、賃金債権の時効も5年とされました。ただし、それまで2年だった時効期間がいきなり、5年になるのは影響が大きいために、当分の間3年とされました。賃金債権の時効に合わせて、書類の保存期間も当分の間3年間とされています。
労働基準法109条の「その他労働関係に関する重要な書類」については、次の通りとされています。
その他労働関係に関する重要な書類(出勤簿やタイムカード、労使協定の協定書、各種許認可書、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類、退職関係書類、休職・出向関係書類、事業内貯蓄金関係書類など)
厚生労働省労働基準局 令和2年4月1日 改正労働基準法に関するQ&A chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/000617980.pdf
違反するとどうなるのでしょうか。
労働基準法109条に違反したからと言って、すぐに罰則やペナルティが課せられるわけではありません。従業員の労働基準監督署への申告などにより、違反が疑われると労働基準監督署により調査が実施されます。調査では、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿などを確認し、違反がないかをチェックされます。
そこで違反が発覚すると、是正勧告を受けることになります。是正勧告に従い速やかに対応すれば、ペナルティを免れますが、是正勧告に従わず、労働基準監督署による再調査で改善がみられていない場合は、罰則につながる恐れがあります。
労働基準法109条違反の罰則は30万円以下の罰金です。また、厚生労働省のホームページ(※)に企業名が公表される可能性もあります。
※ 労働基準関係法令違反に係る公表事案 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/jirei_toukei/souken_jirei.html
書類の保存方法
書類は電子データでの保存も認められています。
仮に電子申請を導入済の会社であれば、交付された公文書はその電子データのままで保存することになるでしょう。労働者死傷病報告書のように電子申請が義務化されている手続きもあります。
統一したルールの基にフォルダを作って、会社名、手続の種類、年度、個人名ごとに作成するのが一般的かと思います。しかしフォルダを作ると、その中にどんな資料があるかは、担当者にしか分からなくなりがちです。
属人化を防止するためには、フォルダを一つにすることをお勧めします。
新たにフォルダを作成するのは禁止にしてもいいくらいに思っています。
以前勤めていた社労士事務所で、2名の前任者からそれぞれの担当を引き継ぎ、自分が担当することになりました。その会社にフォルダ作成の統一ルールはあるのですが、前任者2名で認識がそれぞれ違うために、その2名の方の電子公文書の保管フォルダが異なっていました。作成した公文書をどこに保存すればいいのか、見たい公文書がどこにあるのか、分かりません。何度もフォルダをクリックして、入ったり戻ったりすることになり、非効率的だったことがあります。フォルダをいくつもの階層で作れば作るほど、探すのも保存するのも大変です。
その代わり、ファイルの名称は、統一ルールを作り、その通り作成します。名称のつけ方の一例ですが、以下のようなイメージです。YYYYMMDDは日付です。
電子申請_雇用保険_YYYYMMDD_手続名(氏名)_公文書
上の例の「電子申請」の文字の部分は、たとえば、「e」といった文字で代用してもいいかと思います。つまりこうなります。
e_雇用保険_YYYYMMDD_手続名(氏名)_公文書
もし、社労士事務所等で複数社の文書を管理する必要があれば、会社名を入れます。例えば次のようになります。
e_会社名_雇用保険_YYYYMMDD_手続名(氏名)_公文書
ファイル名でルールを決めた方が、新たに担当する者にとってルールが明確で分かりやすいです。担当者が変わっても分かりやすいと思います。また、複数名で担当していてルールの認識違いが発生した場合でも、気づきやすいです。
必要な公文書を探すときは、パソコンの「windows」ボタンを押してキーワード検索します。フォルダが一つであれば、フォルダの中で並べ替えもできます。「このフォルダの中にある」ということがはっきりしていれば、安心感にもつながります。そのフォルダになければ無いということが確信できれば、また別の手段や対応を考えられます。長い時間探したけど結局見つからなかった、という事態を避けることができると思います。「探す」という行為の時間は、最小限にしたいものです。
保存場所についてですが、自社のパソコンのハードディスクに保存するのであれば、定期的にバックアップは必要になるでしょう。パソコンは故障する可能性もあります。ドロップボックス等のクラウドサービスを利用して、自社パソコンとクラウドの2か所に保存すれば、クラウドをバックアップの代用として利用できると思います。
フォルダを作らずファイル名で電子文書や資料を管理する方法が有効なのは、何も組織の中で複数人で管理する場合に限りません。管理者が自分一人しかいない、ひとり社長であっても有効です。
見たい資料を探すときは、パソコンの「windows」ボタンを押して、文字で検索する方が、慣れてしまえば早いです。自分はもちろん、フォルダを作らない、ファイル名による管理をしています。