「労働者とは誰か?」─厚労省報告書から読み解く労働者概念の行方

2025年1月、厚生労働省は、「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表しましました。

目次

  1. 労働基準法における「労働者」
  2. 報告書に見る、現代における「労働者性」の課題
  3. 労働基準法における「使用者」

労働基準法における「労働者」

報告書は、全部で51ページからなります。(厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html)
1 はじめに
2 労働基準関係法に共通する総論的課題
3 労働時間法制の具体的課題

の3つのテーマに大きく区分されています。その中で、労働者の概念について検討する、という文言があり、どのような結論がでるのか興味深いです。

労働者の定義については、労働基準法に定められています。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法9条

実態として使用従属関係があれば、労働者と判断されます。

使用従属関係とは、指揮命令を受け、賃金の支払いを受ける関係をいいます。

これについては、以下の厚生労働省のHPで具体的判断基準を示しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html

報告書に見る、現代における「労働者性」の課題

この報告書では、プラットフォームエコノミー、AI、アルゴリズムといった言葉が出てきます。例えば、短時間のみの契約を結び、求人者と求職者を仲介するプラットフォーマーも出てきています。飲食業や農業などの繁閑の差がある仕事では需要もあるようです。
AI、アルゴリズムに命令されて働くといったことも、あながち夢物語ではないように思います。

プラットフォームワーカーについては、以下の諸外国の例も挙げています。

  1. 個人で役務を提供している者を「労働者である」と推定したうえで、それに異論がある場合には使用者に反証を求める方式(米国のいわゆるABCテスト)
  2. 各国の法令、労働協約等に従って、指揮と支配を含む要素が見いだされる場合には、法的に雇用関係があると推認する方法(2024年10月に成立したEUの「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令」)

報告書からは離れますが、労働基準法上の労働者にならない者の例として、建設業の下請負人や競輪選手などがあげられます。

労働者になる者の例として、法人の重役(工場長、部長等)ではあるが、業務執行権又は代表権をもたず、賃金を受ける者、があります。

労働基準法における「使用者」

使用者の定義も見てみます。

この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為するすべての者をいう。

労働基準法10条

たとえば、人事部長Aがいたとします。Aは、社長との関係においては労働者となります。しかし、Aと一般社員との関係においては、Aは使用者となります。

同じ会社の中の同じ人間でも労働者になったり、使用者になったりします。複雑です。

労働基準法は、労働者保護法です。保護される労働者の適用範囲が狭くならないような議論を望みます。

興味のある方は、「労働基準関係法制研究会」の報告書を読んでみていただければ。