初めて人を雇ったら必要な手続き

目次

  1. 労働保険の概要
  2. 初めて人を雇ったら必要な手続き
  3. 個人事業の一定の業種の場合には注意

事業者が初めて人を雇ったら必要な手続きについてお話しします。

まず、労働基準法の手続についてです。
事業者は、適用事業報告を労働基準監督署に提出する義務があります。労働基準法104条2で「行政官庁は、使用者に対して必要な事項を報告させることができる」とされていることが根拠となります。

次に必要な労働保険の手続きについてお話しします。

労働保険の概要

労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。

事業者が個人事業であろうと法人であろうと、初めて人を雇ったら、公務員等の一部の例外を除き、労災保険の適用事業になります。

以下の労災保険法3条1項とは、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業所とする。」というものです。

(保険関係の成立)
第三条 労災保険法第三条第一項の適用事業の事業主については、その事業が開始された日に、その事業につき労災保険に係る労働保険の保険関係(以下「保険関係」という。)が成立する。

第四条 雇用保険法第五条第一項の適用事業の事業主については、その事業が開始された日に、その事業につき雇用保険に係る保険関係が成立する。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

雇用保険法5条1項とは、「労働者が雇用される事業を適用事業所とする。」という条文です。しかし、これには適用除外があり、

1週間の所定労働時間が、20時間未満である者(日雇労働被保険者を除く)、
同一の事業主の適用事業所に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者(除外規定有)、
季節的に雇用される者、

等については、雇用保険法は適用しません。(この除外規定の1週間の所定労働時間が20時間未満である者については、令和10年10月1日以降は10時間未満に変更されることが決まっています。こちらのブログも参考にしてください。)

短時間や短期間働く者については、雇用保険法で保護すべき労働者ではありませんから適用除外します、という趣旨です。

例えば、スキー場のゲレンデで冬場だけ働く人がいて、その人は、春夏秋はスキー場で働いていないとします。春夏秋は失業している、と言って、その人に失業等給付を支給するのはおかしいですよね。そのような人は除外しています。

(保険関係の成立の届出等)
第四条の二 保険関係が成立した事業の事業主は、その成立した日から10日以内に、その成立した日、事業主の氏名又は名称及び住所、事業の種類、事業の行われる場所その他厚生労働省令で定める事項を政府に届け出なければならない。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

適用事業所については、その事業の開始の日又は適用事業に該当するに至った日に、法律上当然に保険関係が成立します。保険関係成立届を提出することによって成立するわけではありません。保険関係成立届は、あくまで報告書という位置づけです。

初めて人を雇ったら必要な手続き

労働保険の加入準備

  • 法人の場合、謄本(3カ月以内の履歴事項全部証明書)
  • 労働者に関する資料(労働者名簿、出勤簿、賃金台帳、雇用契約書)
  • 税務関係(事業開始届・確定申告書など)書類のコピー
  • 事業所の名称・所在地、事業の実態の確認できる資料(許認可証、登録証、契約書、公共料金の領収書、請求書など)
  • 雇用保険の被保険者番号(雇用保険被保険者証を見て確認、被保険者証がない場合は、前職の離職票を見て確認、それも難しい場合は履歴書のコピー)

労働保険の新規適用手続き

労働保険関係の新規適用手続きには、以下のものがあります。

  • 保険関係成立届(成立から10日以内)
  • 雇用保険適用事業所設置届(成立から10日以内)
  • 雇用保険被保険者資格取得届(翌月の10日まで)
  • 概算保険料申告書(成立から50日以内、ただし有期事業の場合は20日以内)
  • 概算保険料の納付(成立から50日以内、ただし有期事業の場合は20日以内)

これらの届け出・手続は、それぞれ提出期限がありますが、通常は同時に行います。

提出先について

  • 保険関係成立届、概算保険料申告書

労働保険の適用事業所となったときは、まず保険関係成立届を所轄の労働基準監督署又は公共職業安定所に提出します。そして、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付します。初めに概算で前払いして、後で確定清算するイメージです。
なお、労働保険事務組合に事務委託していない場合、保険関係成立届は労働基準監督署に提出します。

  • 雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険の適用事業所となった場合は、上記のほかに雇用保険適用事業所設置届及び雇用保険被保険者資格取得届を所轄の公共職業安定所に提出する必要があります。

[一元適用事業の場合]

一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付を両保険一本として行う事業です。

種類提出先
1保険関係成立届所轄の労働基準監督署
2概算保険料申告書所轄の労働基準監督署
又は、所轄の都道府県労働局
又は、日本銀行(代理店でも可)
3雇用保険適用事業所設置届所轄の公共職業安定所
4雇用保険被保険者資格取得届所轄の公共職業安定所

※1の手続を行った後、又は同時に2の手続を行います。
※1の手続を行った後、又は同時に3,4の手続を行います。

※電子申請の場合は、1,で労働保険番号が決定してから、3,4を申請します。

[二元適用事業の場合]

二元適用事業とは、その事業の実態からして、労災保険と雇用保険とは適用労働者の範囲が異なる等の理由から一元化がなじまないために労災保険と雇用保険の納付を別個に行う事業です。
一般に都道府県及び市町村の行う事業、農林水産や建設の事業が二元適用事業、それ以外の事業が一元適用事業になります。

労災保険に係る手続

種類提出先
1保険関係成立届所轄の労働基準監督署
2概算保険料申告書所轄の労働基準監督署
又は、所轄の都道府県労働局
又は、日本銀行(代理店でも可)

※1の手続を行った後又は同時に2の手続を行います。

雇用保険に係る手続

種類提出先
1保険関係成立届所轄の公共職業安定所
2概算保険料申告書所轄の都道府県労働局
又は、日本銀行(代理店でも可)
3雇用保険適用事業所設置届所轄の公共職業安定所
4雇用保険被保険者資格取得届所轄の公共職業安定所

※1の手続を行った後又は同時に2~4の手続を行います。

個人事業の一定の業種の場合には注意

農林水産業や飲食、理美容、旅館等の法定17業種の個人事業主が人を雇った結果、労働者が5人以上となった場合、労働保険と同時に健康保険、厚生年金の適用事業所となる場合があります。

従業員が50人以下の適用事業所の場合、週所定労働時間が30時間以上等の一定の要件を満たす労働者を雇用すると健康保険・厚生年金の適用事業所となります。

従業員が51人以上の適用事業所の場合、週所定労働時間が20時間以上等の一定の要件を満たす労働者を雇用すると健康保険・厚生年金の適用事業所となります。

その場合、労働保険の手続と同時に社会保険(健康保険・厚生年金)の手続も同時に行う必要がでてきます。注意が必要です。

健康保険、厚生年金の手続については、こちらも参考にしてください。