フリーランス法の概要

目次

  1. 概要
  2. 留意点
  3. まとめ

明けましておめでとうございます。2025年もよろしくお願いいたします。

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が令和6年11月1日に施行されました。

「特定受諾事業者」という聞きなれない言葉が出てきます。大雑把にいうと従業員のいない個人事業主と1人社長のことです。

経済法的な部分と労働法的な部分の2つが合わさってできた異色の法律となっています。経済法との関係では、下請法の適用範囲が限定的(親事業主が資本金1000万円超)である、独占禁止法の執行行政機関である公正取引委員会では体制的な限界がある、といった狭間をうめる目的があるようです。労働法的な観点からは、働き方の多様化が進展する中、労働法では基本的には保護の対象外であるフリーランスの方が安定的に働くことができる環境を整備する目的があります。消費者や企業を含む不特定多数との取引ではなく、事業者間(BtoB)における委託取引が対象となります。事業者がフリーランスに業務を委託する際の義務と禁止事項についてまとめてみます。

概要

まずは、厚生労働省のホームページより概要を見ていきます。先ほども述べましたが、大きく2つの部分からできており、取引の適正化の部分と就業環境の整備の部分があります。

概要

1.対象となる当事者・取引の定義

(1)「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいう。[第2条第1項]

(2)「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう。[第2条第2項]

(3)「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいう。[第2条第3項]

(4)「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものをいう。[第2条第6項] ※ 「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まない。

2.特定受託事業者に係る取引の適正化

(1)特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならないものとする。[第3条]

※従業員を使用していない事業者が特定受託事業者に対し業務委託を行うときについても同様とする。

(2)特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならないものとする。(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)[第4条]

(3)特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①~⑤の行為をしてはならないものとし、⑥・⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないものとする。[第5条]

① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること

② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること

③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと

④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること

⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること

⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること

⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

3.特定受託業務従事者の就業環境の整備

(1)広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないものとする。[第12条]

(2)特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないものとする。[第13条]

(3)特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないものとする。[第14条]

(4)継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないものとする。[第16条]

4.違反した場合等の対応

公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとする。[第8条、第9条、第11条、第18条~第20条、第22条][第24条、第25条] ※ 命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処する。法人両罰規定あり。

5.国が行う相談対応等の取組

国は、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備に資するよう、相談対応などの必要な体制の整備等の措置を講ずるものとする。[第21条]

以上は、厚生労働省のホームページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

の【法の概要】からの引用です。また、以下は同じページの【法の説明資料】のページの写真です。

企業側(発注側)の留意点

上の図のように、発注する事業者側の規制内容は、義務と禁止行為があります。従業員または役員の有無、業務委託の期間により異なりますが、本法の適用対象となる業務委託は多いと思われます。発注側が従業員のいないフリーランスだとしても、フリーランスに発注を行う際は、以下のような確認と契約書、発注書等の書式の整備が求められます。

  • 従業員の有無の確認

発注事業者は、業務委託をする時点で受注事業者の「従業員」の有無を確認する必要があります。この確認は、口頭によることは可能ですが、発注事業者や受注事業者にとって過度な負担とならず、かつ、トラブル防止の観点から、記録に残る方法で確認することが望まれます。例えば、電子メールやSNSのメッセージ機能等を用いて受注事業者に確認する方法などが考えられます。

ここでいう従業員を使用とは、週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することをいいます。雇用保険の被保険者の要件に合わせています。週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、当該派遣労働者を使用していないものの、「従業員を使用に」に該当します。また、事業に同居の親族のみを使用している場合には「従業員を使用」には該当しません。また、「特定受託事業者」(スリーランス)の法人の場合の定義に「一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」がありますが、同居の親族が役員である場合は他の役員に該当しない、といったことがあります。「はぁーあー」となるかもしれません。ややこしいですね。同居の親族のみを使用する事業は、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関連法の適用が原則として除外されます。「労働者というより家族でしょ」という考え方ですが、それに似ていますね。

これらは、厚生労働省の同じホームページの【Q&A】にあります。単に「従業員の有無」として聞くと事実と異なる回答になる可能性もあるので、この【Q&A】を読んだうえでメール等により確認することが望ましいです。この【Q&A】を読むだけでもそれなりの負担ではありますが・・・。

  • 書面等による取引条件の明示

業務委託事業者は、特定受託事業者に対して本法第3条により明示する必要があります。以下は3条通知により明示すべき事項です。当たり前ですが、明示事項については法定事項以外の事項も明示することが、紛争防止のために必要です。

  1. 業務委託事業者及び特定受諾事業者の名称
  2. 業務委託した日
  3. 給付・役務の内容
  4. 給付・役務提供の期日
  5. 給付・役務提供の場所
  6. 報酬の額及び支払期日
  7. (検査をする場合は)検査完了日
  8. (現金以外の方法で支払う場合)支払い方法に関すること

また、発注側が従業員のいる業務委託者の場合、追加で以下の義務が課されます。

  • 給付受領日から起算して60日以内(再委託の場合は、発注元からの支払いを受ける期日から30日以内)のできる限り短い期間内で、支払期日を定め、その日までに支払うこと。
  • 募集情報の適格表示
  • ハラスメント対策に係る体制整備

ハラスメント対策に係る体制整備とは、具体的には、業務委託におけるハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、業務委託に係る契約担当者等を含む労働者に周知・啓発すること。業務委託におけるハラスメントの行為者は、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、業務委託に係る契約担当者等を含む労働者に周知・啓発すること、などがあります。

業務委託の期間により、さらに受領拒否等の禁止行為や、育児介護等と業務の両立に対する配慮、途中解除等の事前予告・理由開示などの義務が課されます。

まとめ

フリーランスに業務委託をしている事業者にとっては確実に負担増ですが、ハラスメント対策に係る体制整備など、労働者に現状講じている対策をフリーランスへも適用させることで対応可能な部分もあると思います。逆に現時点でハラスメント対策を行っていないとすれば、現行の労働関係法規に違反している可能性が高いので、早急な対応が求められます。

私自身、1人で事業をしており、特定受託事業者に該当します。契約書を確認したところ、取引条件の明示事項の一つの「特定受諾事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける場所」が記載されていなかったので追記しました。

「働き方の多様化」そのものは抗うことのできない時代の変化でしょう。この法律の取引条件の明示のほか、2024年4月から労働条件の明示事項の法改正も施行されています。さらにジョブ型雇用という言葉もあります。働き方が多様化すれば、個々の契約を重視せざるを得ません。契約書を重視するという大きな変化がある、ということは認識しておいた方がいいと思います。